頭蓋下顎障害(CMD)と矯正に際して前準備として行う押圧法について

                   岡永 覚(顎咬合誌第18巻第3号掲載論文要約)

はじめに

 日常の頭蓋下顎障害(CMD)の臨床において、カイロプラクティックや整体術が応用されることはあまりありません。また、姿勢と頭蓋下顎障害との関連性が考慮されることも少ないです。しかし、カイロプラクティックや整体術、理学療法の分野では、姿勢と頭蓋下顎障害の関連性が重要視されています。カイロプラクティックや整体術では、顎関節に矯正も行われています。いったい、このギャップはどこから来るのでしょうか。

 著者は、世間一般において、カイロプラクティックや整体術に対する誤解から来る偏見が少なからず存在していると考えています。医師、歯科医師などの間でも、カイロプラクティックや整体術が広く正しく理解されているとは言い難い実情を考えると、それも仕方のないことかもしれません。

 しかし、カイロプラクティックや整体術は、一部マスココミがおもしろ半分に取り上げているような「力まかせに、無理に骨格を矯正する」暴力的名手技では決してありません。そのような誤解から来る偏見を改め、歯科の臨床にカイロプラクティックや整体術が抵抗なく取り入れられるように、その治療の流れとその背景にある考え方を紹介します。

方法

 カイロプラクティックや整体術で、実際に骨格を矯正する前にしておくことがあります。術前に赤外線やホットパックなどの温熱療法や牽引療法を施します。あるいは、手指にて押圧することもあります。そこで、今回は、顎関節の矯正に入る前に行う押圧法について報告します。今回紹介する方法は、整体術において広く行われているもので、顎関節のほか、頚椎の矯正が必要なケースであっても、応用可能です。

 以下、実際の術式を説明します。

1.      準備

ユニットの上に患者を座らせ、ユニットを水平に倒します(もし、マッサージ台があるならば、その方が望ましいです)。

2.      頚部浸透押圧法

頚椎後部の側面を両手でさぐり、固い方を揉み解します(図1)

3.      百会穴浸透押圧法

頭頂の百会を、両親指にて押圧します(図2)。

4.      肩井穴浸透押圧法

両肩の肩井を、両親指にて押圧します(図3)。

5.      頚椎部調整矯正法

頚椎を下から順番に持ち上げます(図4)。

6.      頚椎部タオル伸展法

患者の後頭部にタオルを入れて両端を額の辺りでねじり、軽く引っ張ります(図5)。

7.      頚部筋側屈伸展法

後頭部を片手で挟み持ち、その手の方へ側屈させて固定させた後、他方の手で肩部を押さえ、下方へ押し下げます(図6)。

8.      顔面部経穴浸透押圧調整法

顔面部の経穴を押圧します(図7)。

以上、顎関節の矯正に入る前の押圧法について述べてきました。この後、通法により顎関節を矯正し、必要ならば頚椎の矯正も行います(特殊なカイロテーブルを使用しないとできない手技もありますが、ユニット上でもできる手技も少なくありません)。

考察

 顎関節の変位、あるいは頚椎の変位は、骨格のみがずれているのではありません。今一度、骨格がずれている原因を考えてみましょう。

 骨と骨とが関節を作り、骨には筋肉が付いています。筋肉が異常に緊張すると、それに引っ張られて骨格が変位します。言い換えると、筋肉の異常な緊張が骨格を変位させる原因であるとも考えられます。カイロプラクティックでは、骨格を矯正することで筋肉の異常な緊張が関節の可動域を少なくし、骨格の矯正を困難にしているのも事実です。したがって、筋肉の緊張を緩和し、関節の可動域を改善させ、その遊びを利用した矯正を心掛けることによって、無理のない安全な矯正に努めることが大切だと思います。筋肉が緊張した状態で、それに逆らう無理な力を強引に加えると、かえって筋肉を緊張させ、患者に苦痛を与えるばかりでなく、期待どおりの効果が得られなくなることさえあります。

 それでは、どのようにして筋肉の緊張を取り除いたらよいのでしょうか。著者は、診査に続いて行われる術前の赤外線やホットパックなどの温熱療法、牽引療法、押圧法などを入念に行うことで筋肉の緊張が緩和できるものと考えています。特に、手指による押圧は、筋肉の緊張状態を触診しながら施術できるので、臨床上有用で、著者は多用しています。もっと、矯正の前準備としてのこれらの療法を重要視するべきだと思います。

まとめ

 頭蓋下顎障害の治療で、カイロプラクティックや整体術を応用するときには、実際の矯正に入る前に手指にて押圧し、筋肉の緊張を取り除くべきです。そうすることによって、無理のない安全な矯正が可能となります。もちろん、患者に与える苦痛も少なくなります。